2012/06/11

天衣無縫 うさぎのハリー

そのウサギの名はハリーという。国連大学前でマルシェが開かれたときのことだ。ハリーは、台の上に乗せられ、じっと横たわり、主人が現れるのを待っていた。そこに、男と女が、男が女に怒られながら一緒に歩いてきた。男は何かをしでかして、落ち込んでいるようだ。女はハリーの横に並んでいた薄い黄緑色のスカーフを買った。そして、ハリーに目を留めた。「この子は、ハリーって言うんです」と、ハリーの生みの親が紹介した。「へー、名前まで付いてるんですね」二人は談笑を続けた。その様子を見て、ハリーは自分は安心していいのだと思った。女はうれしそうにハリーを抱き上げて家に連れ帰った。

ハリーはアパートの一室に連れられた。男に手を通されると、ハリーは話し始めた。

「おいらは、本質で勝負するウサギさん、ハリーっていうんだ。どこぞの誰かさんは、たいそう有名らしいが、おいらは驚かない。奴は、どうやら化学繊維でできているらしいが、おいらは、オーガニックコットンでできているからね。おいらも、正直に言うと、奴をうらやましく思ったこともあった。奴のもとには子どもたちがいっぱい集まってくるだろ。奴を見ただけで子どもたちは大喜びだ。でも、人それぞれ、ネズミそれぞれ、ウサギそれぞれ、一匹いっぴきに役割があるって気付いたんだ。奴のことを悪く言ってしまったかもしれないが、奴はそれでいいと思うんだ。奴は見られるために生きている。触れられることはほとんどない。だから化学繊維でも全く問題がないってわけだ。だが、おいらは触れられて喜んでもらうために生きている。だから、オーガニックコットンじゃないと都合が悪いってわけだ。奴にもいいところがある。だが、おいらにもいいところがある。ネズミそれぞれ、ウサギそれぞれ、自分のいいところを生かして誰かの役に立てればいいじゃないか。そういうわけで、長くなっちまったが、ご挨拶はこのくらいにしておくよ。よろしくな」

ハリーは一気にしゃべり過ぎたせいか、疲れてベッドの上でぐったりと横たわっている。普段はおとなしそうな顔をして黙っているが、しゃべり出すと止まらなくなることがある。どこか主人の男と似ている。











天衣無縫 うさぎのハリー ハンドパペット
http://shop.tenimuhou.jp/shopdetail/013004000003/order/